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by under-heart
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スモモ飴  ①話

 待ち合わせは午後の一時に浅草の雷門前だったのだけれども、その日もあたしは遅刻で三十分待人を待たせてしまった。

 その娘と初めて会ったのは、あたしが大学を卒業して初めて、友人のツテからシナリオの仕事を頂いた時、題材の「バレエ」について調べあげる中で、学生ダンサーとして知人に紹介してもらった時だった。

 それは取材だった。

 舞踏の世界を何も知らないあたしにとって、バレエのシナリオを書く事は本当に「0」からのスタートだったから、何十冊と本を読み漁り、レッスンを見学させてもらい、自らの想像力で構築されたそれらを実感するために経験者との対談がしたかった。

 遅刻が常習だったけど、これまでの遅刻には仕事上の理由があったりして大目にみてもらっていたのだが、今回ばかりは取材ではなく、二人で初詣に行こうと決めた最初の「待ち合わせ」としてだった。
 去年の一月五日。
 雷門の前でご立腹だった。
 前日の夜中まで、年越しを含めアルバイトが一週間近く続き、全て14時間労働だった為、疲れ果ててしまい、少し寝坊してしまった。自分にとっても今年初めての休みと参拝なのだから、一年の計としても少々まずい。

 明るく振舞い、機嫌をなだめ、目抜き通りを進むところでおみくじがあったので、注意を促し二人でおみくじいてみたのだが、こういう時ばかりにあたしが「大吉」でこの娘は「凶」
 冗談じゃないぜ、なんて思っても事実出てしまったんだから仕方がない。遅刻なんてするもんじゃない。
 ますます機嫌が悪いあの娘に、
「俺と君のおみくじを交換するね?そして俺がこの『凶』おみくじを結ぶ、で、君が『大吉』をむ結ぶ。君は当然浅草の神様に大吉を結んだのだから縁起がいい。俺としても、大吉を引いた福を持って凶を大吉と取り替えかえてあげることは、神様の前でひとつ徳を積んだ事になるから縁起が良い」
 なんていう出鱈目な理屈でなんとか機嫌を取ると、遅刻に関してはりんご飴屋でスモモ飴をおごらされる事でチャラにしてくれた。大吉もまんざらではない。

 この娘は吉祥寺にある大学に通い、休日はアルバイトに励み、そのお給料のほとんどをレッスンのチケット代に変えてしまう苦労をしていたから、取材としては身の在る話を聞けたが、取材が終わるとお互いが忙しく会う時間はない。
 出来上がった作品を手渡した十一月の終わりに、
「じゃあ、初詣でもいこうか?」
 なんていうあたしの必死の冗談が現実となり、正月を五日も過ぎてこの日を迎えられたのだから、あたしは遅刻なんてしている場合ではなかった。


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by under-heart | 2007-01-13 23:14 | beyond description