えへへへへ


by under-heart
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オイオイ

「お~い!見つかったぞぉー!」
「あ、あんたぁ!!」

「ほんと、馬鹿よねぇ!役立たずのウスラトンカチの木偶の坊だよ!あたしがあれだけ止めたのにさぁ、ちょっとウチの娘が帰ってくると知ったら身の程も知らずに海に出ちゃうんだから!こんな時化の海で何が取れるって言うんだよ!船から何まで全部引っぺがされて命があっただけでめっけモンさあ!前々から馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどね、まったくここまでのロクデナシだとは思わなかったよ。はぁ~、あたしは亭主には運が無いねぇ。運が無いよ!治るまであたしが働きでも見つけなけりゃいけないし、この、馬鹿亭主!しっかり寝てるんだよ!」

「今ね、組内の方々やお世話になった隣組の方々に丁~寧にお礼言って来たからね。世話のやける亭主なんだよぉ、あんたは。・・笑ってやがる。あのね、もう少しであたしを若くして後家にするところだったんだよ!若いが余分だ?生意気なこと言ってんじゃないよ!いいかい?そんなにあたしが若くないってんなら、よ~くお聞きなさい。この皺の一本一本がね?なぜ出来たのかをね?ちょっとでも考えてね?あ、あんたはね、あたしの事をね、か、考えてくれた時があるのかえぇ?お前さんはぁオイオイオイ(涙)。あたしがまだ15の時だよ?あんたがウチのおとっつあんの前に土下座ぁ構えてさぁオイオイオイ・・」

『娘さんをくだせえ!なに?だめですかい?若すぎるって、お父さん、こっちは負けたら示しがつかねぇ、死ぬ覚悟でやってきてるんですぜ!』
なんて、もともと気が小さいくせに、あんたは緊張で目を真っ赤にして意気込み着物を払うとサラシの中に一本隠してたんだから、こっちが驚いちゃったよ。
『さあ、駄目ならここで腹を切る覚悟だ!お父さん、これでも駄目と言い張りますかい!』
『まあ待て、ともかく、既に腹から滲み出てる赤いもんは何だってんだい?』
『これですかい?これぁ、この大一番に失敗しちゃあいけねえから、今朝の朝一で練習してきた真っ赤な血ですぜ!さあ!こちとら準備は万端!あんまりまごまごしてると、こっちもまた、切り方忘れちゃいけねぇから、ちょっと練習しますぜ!痛てぇ!』

「あたしもさぁ、ここまで命を掛けて愛してくれるんだもの。と思ったからさぁ、強引にでも一緒んなっちゃったけど、良く考えれば、そんときに『馬鹿』だと気付けたのにねぇ?まったく、それからあんたは博打に暮れちまって、村ぁ追い出されて、何も知らずに付いて来ちゃったもんだからぁ・・。ここからだよぉ、あたしの不幸はさぁオイオイオイ。あたしは知り合いの誰一人いないこの町でね?あんたは産まれ故郷だからいいよ?この、顔の皺がね!お他人様に頭を下げれば一本増え、子供が泣く度に一本増え、借金取りが戸を叩く音で一本増え、あんたが海に出て、帰ってこない度に一本増えるんじゃないか!ばか!ばか!ばか!」

「でもさぁ、一度でもさぁ、あたしが好きになった人だからさぁ。『幸せ』じゃあないけどさぁ。馬鹿でもいいからさぁ。頼むから、長生きしておくれよ?」




          『意見するのは親身の人と 思いながらも恨めしい』




「何言ってんだよ、あんた。そりゃそうだよ。まだ死なれちゃあ、困るよ?保険に入ってもらってからじゃないと・・」
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by under-heart | 2006-12-06 21:15 | beyond description