えへへへへ


by under-heart
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リリー

「クンニだよ、クンニ。クンニが足りねぇに決まってるじゃん」

大学の卒業式の懇親会場の中、今日の悲しさと照れ隠しに酔いが手伝い、一際大きな声を張り上げて友人Kが叫んだ。

それは彼女と美味くいかなくなってしまった友人Sに向かっての誠心誠意を込めたアドバイスのつもりだった。

「え?そんなん当たり前じゃん?Sはクンニしないんでしょ?クンニしないから駄目なんだよ。長いやつ。女はそれで幸せ感じんじゃん。ねぇ、Hちゃん(♀)?」

なんとなくその言葉に説得力があったのは、Kが童貞だったからだ。
童貞がする性の話は力強い。想像力が経験を黙らせる。
みんな否定する訳でもなく、否定出来る訳でもなく、所在なさげに視線を迷わせ、
「クンニだな、S、クンニだよ」
と、話が纏まっていった。

「クンニか、なぁ・・・」

Sは説得されていた。
だいぶスペシャルな飲み込まれ方だと思う。

後日、その友人Kに尋ねた。
僕「なんでクンニなん?なんでお前が知ってるん?分かるん?」
K「ああ、リリー・フランキーが言ってたから」

至極、うすっぺらく、大笑いした。


リリー・フランキーの名前と存在は知ってはいたが、意識したのはその時からだった。

『友人とキャンプに出かけた時の事。
大荒れの天気に見舞われ、洪水で危険極まりない川に飛び込んだ。
死んだら俺はここまでのヤツなんだ』
この様な冒頭文の本をかじった事がある他、それまでは、
「エロエッセイを書く人」
との認識しかあらず、吉祥寺のスミっこの店でサインを見つけたくらいだった。



それから約一年後、僕が東京で出会った一番綺麗な人と最後の食事をした。
「『東京タワー』読んだ?
あたし、一昨日全部読み終わったんだけど、電車の中で涙が止まらなくって。
その話、会社でしたらみんなに笑われちゃった。
でも、すごく良い本だったの」

ああ、リリーフランキーの。
と思い、なんだか悔しいから読む気にならなかった。


それからしばらく、その「東京タワー」が今とても売れている。

読者層は20代から30代の方が多く、特に自立して一人で暮らしている方には感銘を強く与えているらしい。
「東京タワー症候群」などと言って、一人暮らしから実家に帰り、家族と暮らす事を決める若い人達の流れも増えているらしい。

この話は、主人公「ボク」と母親「オカン」を中心にした「家族」の物語。
と、共に、

主人公「ボク」の母親「オカン」に対する情けない物語。
情けないことは悪いことじゃない。
当たり前のこと。

先日、テレビでも放送されていた。
放送前に妹から、
「このドラマ面白いかなぁ?」
「本、読まなきゃ駄目だろう。本読んで感動出来ないと、テレビ見ても本当の事が読み取れない気がするよ?」

そんな事を言ったなぁ、なんて思いながら、ウチの町の図書館でたまたま「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を見つけた。
「時々オトンって・・・」
ダサい名前だな。



僕は父親を失っていた。

時代が求める時に応える作家は出てくるものなんだ。
この作品を読んでそんな事を思った。
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by under-heart | 2006-12-02 21:35 | at a loss